『ホタルの不思議』(大場信義著/どうぶつ社/2200円+税)
 ホタル博士として名高い著者が、長年にわたるホタルについての研究の道をたどってまとめた本で、ホタルの分類や生態の解説書であると同時に著者の自分史でもあり、またホタルについての研究史でもある多面的な内容になっています。発光生物学者であった羽根田弥太博士に師事してホタルの研究を始めた著者は、ゲンジボタルやヒメボタルの光によるコミュニケーション研究で大きな成果をあげ、さらには南西諸島、中国、東南アジアなどの各地での観察を重ね、日本のホタルのルーツを明らかにすることを目標に、現在もさまざまなテーマで調査を続けていると言います。著者は、共同研究を通じて、多くのホタル研究者を育てたとともに、各地にホタルを通じて環境を保全する活動の種をまいてきました。読み進んでいくと、一人が一生にできる仕事はかくも大きなものにできるのだと感じさせられます。細かい活字でびっしり組まれた紙面が、その仕事の充実ぶりを示しているようです。最後の1章は、ニューギニアなどのホタルの木の話題にあてられ、一年中多くの個体が集まって一斉点滅を繰り返すホタルの木のメカニズム、またそこで生活する多くの擬態昆虫の不思議が紹介されています。一読者としては、ゲンジボタルの発光パターン、イリオモテボタルの生態など同じ内容の情報がくり返し出て来ることがあって、少々煩雑に感じました。また、南西諸島の多くの種で、光の乱舞するような大群が姿を消したという記述が、何回も出てきて、自然の劣化が著しいことを改めて知らされました。(2009/10)